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最新人事労務耳寄り情報vol.5ー配置転換・転勤(その2)



技術職として長年勤務していた従業員に、会社はその従業員の同意なく総務課への配置換え(配転命令)を行うことは許されるのでしょうか?


この点について最高裁令和6年4月26日判決は


「労働者と使用者との間に当該労働者の職種等を特定のものに限定する旨の合意(職種限定合意)がある場合、使用者(会社)は一方的に配置転換を命じることはできない」


としました。


つまりこの従業員に対して総務課への配置換えはできないとしたのです。


この事案はどのようなものだったのでしょうか。


従業員(Aさん)は平成13年3月、福祉用具の改造、製作などの技術職として雇用されて以降、技術職として勤務していました。


そしてAさんと勤務先(社会福祉法人)との間には職種と業務内容を技術職に限定する旨の職種限定合意がありました。


勤務先は、Aさんに対し平成31年4月1日付で総務課への配置転換を命じましたが、Aさんがこれを不服として訴訟を提起したというものです。


なおこの背景には勤務先での福祉用具の改造や製作業務の廃止でAさんについて解雇がありうる状況だったということがあります。


この事案において最高裁はAさんの同意のない配置転換はできないとしました。


最高裁の論理は非常にシンプルです。契約上職種が限定されている以上、Aさんの同意なく一方的に配置転換を命じることはできないというものです。


しかし社会の変化が非常に激しくなっている現在、事業の廃止、整理縮小を機動的に行わなければ企業の存亡に関わります。

その際廃止された業務に従業員を勤務させ続けなければならないというのでは企業、特に中小企業にとって致命的です。


最高裁判決を前提として、このような場合どのような対応が考えられるでしょうか。


もちろんまずは配置転換について従業員の理解を得るべく丁寧に説明することが必要です。


問題は同意が得られないケースです。このケースに備えどのような準備が可能でしょうか。


考えられるのは就業規則の整備です。

多くの企業の就業規則では配置転換について抽象的に定めているだけです。


たとえば「業務の都合上、社員に配置転換、転勤、職種の変更、職制上の地位の変更、出向、転籍等の異動を命ずることがある」などです。

これを①変更の高度の必要性、②変更後の業務内容の相当性、③代償措置などがある極限的な場合には職種限定合意があっても配置転換の余地を認めるものに変更することが考えられます。


労働契約法10条但書は「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については」新しい就業規則によっても変更できないとしているため万能ではありませんが、万一のトラブルの際、対応余地が広がります。


最後の手段としては整理解雇が考えられます。


整理解雇は厳しい要件があります(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性)。職種限定合意があった場合、これらの要件をどのように考えるかは裁判例上未確定ですが(職種限定合意があり、当該職種が廃止になる以上解雇回避努力は緩やかでよいとするのか、そうでないのか等)、いずれにしても上記の丁寧な説明、同意を得るプロセスを経ることは必須です。


もう一点本判決で注意すべきことは本件ではAさんとの間で書面による職種限定合意はなかったということです。


地裁、高裁判決ではAさんがこれまでずっと技術職で勤務していたこと、Aさんの技術(溶接)を有する者は勤務先でAさん以外にいなかったこと、Aさんが採用された経緯もAさんの溶接技術に着目したものだったことから、書面がないにもかかわらず黙示の職種限定合意が認められ、最高裁でもこれを前提とした判断がなされました。


そして、2024年4月1日から労働条件明示について制度改正が行われ、就業場所・業務の内容に加えこれらの変更の範囲についても明示しなければならなくなりました(労働基準法施行規則第5条)。


この明示内容によっては従来よりも緩やかに黙示の職種限定合意が認められる可能性がありますので、明示の際には特に注意が必要です。

Written by 法律事務所アイディペンデント

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